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福島地方裁判所 昭和59年(行ウ)1号 判決 1985年9月30日

原告 愛沢慶助 外五五名

被告 福島県原町保健所長

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  主位的請求

被告が昭和五八年四月一四日福島県指令原保第一三七一号をもつて、相馬方部衛生組合管理者相馬市長今野繁に対してなした火葬場経営許可(以下本件許可処分という)は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  予備的請求

被告のなした本件許可処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の申立て

主文と同旨。

2  本案に対する申立て

原告らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  被告は、昭和五八年四月一四日、相馬方部衛生組合管理者相馬市長今野繁に対し、墓地、埋葬等に関する法律(以下墓地埋葬法という)一〇条一項に基づき、本件許可処分(<1>火葬場の名称相馬方部衛生組合斉場、<2>火葬場の所在地、面積相馬市坪田字宮東二五番、二六番一、三八七三平方メートル、以下本件火葬場という)をした。

二  しかし被告のなした本件許可処分は無効である。

1(一)  本件火葬場は都市計画法上の都市施設であるから、本件火葬場の設置は、本来相馬市が都市計画事業として施行すべきものである。ところで右都市計画事業の施行者は相馬市又はその一部事務組合である相馬方部衛生組合(以下組合という)であるから、都市計画法五九条により、相馬市又は組合において、福島県知事の認可を受けたうえこれを施行すべきものである。そして火葬場の経営については、右認可をもつて、墓地埋葬法一〇条の許可があつたものとみなされる(同法一一条一項)。

(二)  しかるに相馬市或は組合(都市計画法五九条一項に規定する市町村に一部事務組合が含まれると解するときは、相馬市)はいずれも右都市計画事業の認可を受けることなく、組合名義をもつて墓地埋葬法一〇条一項による経営許可の申請をなし、被告において、その許可をしたものである。

(三)  都市計画事業としての火葬場施設は、右(一)のとおり県知事の認可を要するものであつて、右(二)のとおりなされた申請は脱法行為であり、被告のなした本件許可処分は違法である。

2  仮に組合において本件火葬場の経営許可申請手続をなしうるとしても、本件申請には、次の瑕疵がある。

(一) 組合は、本件火葬場の施設について、墓地埋葬法二条七号に規定する福島県知事の許可を受けていない。

(二) 本件許可処分は、火葬場施設の事業内容が策定されたものについてなされるべきものである。しかるに相馬市都市計画火葬場承認の手続において、本件火葬場の平面図、配置図等が作成されていたに過ぎず、火葬場の事業内容である収用又は使用の別を明らかにした事業地、設計の概要、事業施行期間等の事業計画、資金計画書等の整備はなく、いまだその事業内容が本件許可処分の申請手続をなしうる段階に至つていなかつた。

(三) 本件許可処分の申請に当つては、その申請書に、<1>見取図、<2>墓地、納骨堂又は火葬場の敷地の図面、<3>納骨堂又は火葬場にあつては建物の図面、<4>市町村長の意見書、<5>土地登記簿謄本、<6>土地及び建物について他の法令により許可を必要とするものにあつては、その許可証の写、<7>土地が他人の所有であるときは、その承諾書、<8>法人にあつては定款又は寄附行為の写及び代表者の資格を証する書類を添付することを要する。しかし

(1) 本件許可処分の申請書には、<6>の添付書類を欠いている。すなわち

<6>の添付書類は、火葬場の経営許可申請書において、事業地の使用について支障のないものであること、換言すれば、事業地の確保が既になされていることを許可要件のひとつとして定められていると解すべきところ、組合は<6>の書類を添付しえなかつたのみか、本件許可処分のあり次第土地収用法による事業認定を受け、次いで該当の土地を農業振興地域から除外する手続をなし、更に農地転用手続をとり、その写を送付する旨記載した書面を添付書類としているにとどまる。なお、組合は右のとおり土地収用によつて事業地の確保を図つているが、本件火葬場は、都市計画事業としてのものであつて、土地収用法による認定事業でないから、この点においても本件許可処分の申請は違法である。また組合は、昭和五八年七月二一日福島県知事に対し、土地収用法一八条の事業認定の申請をしたが、土地収用法の適用はできないとして、不受理とされている。したがつて土地収用法の事業認定を前提としてなされた本件許可処分は、その後の手続を進めえないこととなつた点からいつても無効である。

(2) また<7>の添付書類としては、土地所有者佐藤満がその所有土地上に組合が火葬場を建設することに同意し、建設事業の認可があり次第土地使用に関する具体的な協議を行うことを約束する旨の覚書が添付されたにとどまる。

(3) 火葬場の経営許可にあつては、火葬場予定地の確保が重要なことはいうをまたない。しかるに組合は、その確保ができておらず、これを後日の手続に委ねるとしているのであつて、このような申請書は、いまだ申請書としての体をなさず、失格のものである。これを漫然と看過した本件許可処分は無効である。

3  本件許可処分の申請書には、相馬都市計画審議会会長から相馬市長宛の「昭和五六年一二月一日付諮問第二九号をもつて諮問された相馬都市計画火葬場の位置決定については、提出された意見書の趣旨を十分に参酌し地域住民の協力を得られるよう最大の努力をすることとし原案に同意する。」旨の書面が添付されており、被告としては、本件許可処分に当つて、地域住民の同意が必要であることを十分認識していた。そして被告は組合と原告ら地域住民との間の右協力についての話合いが進捗していないことを知悉しながら、本件許可処分をしたものであつて違法である。

4  被告は地方住民に対する奉仕者として、住民福祉に重大な利害を及ぼすべき本件許可処分をなすに当つては、関係住民の意見を諮り、住民の意思に反しないように配慮すべきである。しかるに被告は住民の反対意見を無視し、住民の同意を得ることに対する組合の努力のないまま、本件許可処分をしたものであつて、適正手続の保障に反する。

5  本件許可処分の申請は、福島県知事が昭和五六年一二月九日付県指令第九三五号(以下第九三五号文書という)をもつてなした承認を受けてなされた相馬市長の都市計画火葬場決定(同年同月一二日相馬市告示第四〇号、以下本件都市計画決定という)による火葬場施設についてなされたものである。しかし本件都市計画決定は、次のとおり無効であるから、本件許可処分も無効である。

(一) 福島県知事のなした右承認は、昭和五六年一〇月二七日付相都第五二六号(以下第五二六号文書という)をもつてなされた本件都市計画の案について、都市計画法一九条一項の規定により承認する趣旨のものである。

(二) しかし第五二六号文書は、事前協議に関する照会の文書であつて、本件都市計画の案の承認申請の文書ではないから、右承認は本件都市計画の案に対する承認としては無効である。

(三) もつとも福島県知事は、昭和五七年三月八日付五六都第九三五号「相馬都市計画火葬場決定の承認について」と題する文書をもつて、相馬市長に対し、第九三五号文書中「昭和五六年一〇月二七日付五六相都第五二六号」とあるは「昭和五六年一二月二日付五六相都第五八三号」の誤りである旨の通知をしている。しかし都市計画法二〇条三項によれば、都市計画は同条一項の規定による告示があつた日からその効力を生ずると定めているから、福島県知事からの右訂正の通知が告示されることにより、本件都市計画決定の効力が生じると解すべきところ、相馬市長は右訂正の通知について告示をしていないから、本件都市計画決定の効力は生じない。

(四) したがつて効力を生じていない本件都市計画決定に依拠してなされた本件許可処分は無効である。

6  仮に右主張が認められないとしても、福島県知事の右承認は、福島県都市計画地方審議会(以下県審議会という)の議決を経たうえでなされたものであるところ、県審議会の議決は、次のとおり無効であり、したがつて福島県知事の右承認も無効であり、ひいては本件許可処分も無効である。すなわち

(一) 相馬市長は昭和五六年一二月二日、五六相都第五八三号文書をもつて、福島県知事に対し、本件都市計画案の承認申請をした。

(二) 県審議会は翌三日、福島県知事から付議された本件都市計画案について、原案に同意する旨の答申をしたものとされている。

(三) しかし県審議会の開催は、右のとおり同年同月三日であるから、その招集手続は少なくとも数日前になされたものというべく、右会議招集通知の議題に、本件都市計画案が入つていた筈はない。

(四) また都市計画法一八条は、県知事が都市計画の案を都市計画地方審議会に付議しようとするときは、法一七条二項の規定により提出された意見書の要旨を、右審議会に提出しなければならない旨規定している。

しかし県審議会には、地域住民及び利害関係人百数十人から出されていた意見書の要旨が提出されていない。

県審議会は、会議の当日突然に議題とされた本件都市計画案について、実質的な調査、審議をする余裕なく、また実質的審議をすることなく、ただ議決した旨の体裁を採つたに過ぎず、右議決は無効である。

7  以上のとおり本件許可処分は違法であつて、その瑕疵は重大且つ明白であるから、無効である。

三  仮に本件許可処分が無効でないとしても、右の違法事由により、取り消されるべきものである。

四  原告米倉武信を除く原告らは、いずれも本件火葬場の地域住民であり、また原告米倉武信は、右地域に農地を所有している者であつて、いずれも本件許可処分の無効確認又は取消しを求める法律上の利益を有するものである。

五  よつて原告らは被告に対し、主位的に本件許可処分が無効であることの確認を求め、予備的にその取消しを求める。

第三本案前の申立理由

一  無効確認の訴えの利益について

原告らは主位的請求として、本件許可処分の無効確認を、予備的請求としてその取消しを求めているのであるが、行政事件訴訟法は処分の取消しの訴えをもつて抗告訴訟の原則的な訴訟類型としており、同法三条四項の無効確認の訴えは、出訴期間の経過により取消訴訟は提起できないが、処分の瑕疵が重大且つ明白でありその救済を図る必要がある場合において、現在の法律関係に関する訴えにより得ないときに限り、例外的補完的に認められた訴訟類型であるということができる。

したがつて、出訴期間の遵守されている本件訴訟においては、取消訴訟によつて原告らの権利救済は十分に図られるのであるから、無効確認の訴えは訴えの利益を欠くものとして不適法であり却下を免れない。

二  処分取消しの訴えの原告適格について

1  処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができるのであるが、法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるものをいうと解されている。

しかして右にいう法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個別的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、行政法規が個別的利益を越えた抽象的一般的な公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果、たまたま一定の者が付随的反射的に受けることとなる利益(反射的利益)とは厳密に区別されなければならず、かかる反射的利益を侵害されたにすぎない者は処分の取消しを求める法律上の利益を有する者には該当しないのである。

2  そこで、墓地埋葬法が、私人等権利主体の個別的利益を保護しているかどうかであるが、同法には火葬場の経営の許可の要件について定めた規定は存在せず、許可権者の自由裁量に委ねられていると解せられるので、要件法規から個別的利益の保護の有無を推認することはできない。

ところで墓地埋葬法は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的としている(同法一条)から、火葬場の経営を許可するに当つては、火葬場の管理が国民の宗教的感情に反して行われることがないかどうか及び公衆衛生その他公共の福祉に支障を生ずることがないかどうかについて検討が加えられなければならないが、ここにいう国民の宗教的感情や公衆衛生はその文言の抽象性からいつても個別的利益を超えた一般的公益としてのそれを意味し、付近住民個々人に帰属する宗教的感情その他の具体的利益は右の一般的公益の保護を通じて付随的反射的に保護される利益であるにとどまるものというべきである。

なお、福島県墓地埋葬等に関する法律施行細則(昭和四四年一月二五日福島県規則第一二号、以下「福島県細則」という。)には次の規定がある。

第一条 墓地、納骨堂及び火葬場(以下「墓地等」という。)の設置場所は、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。ただし、知事が土地の状況等から衛生上及び風教上支障がないと認めるときは、この限りでない。

一  墓地及び火葬場

ア  国道、県道その他交通のひん繁な道路、鉄道、軌道又は河川に近接していないこと。

イ  官公署、公園、学校、病院その他の公共的施設及び人家の集落から、墓地の場合にあつては一〇〇メートル以上、火葬場の場合にあつては三〇〇メートル以上離れていること。

ウ  飲用水を汚染するおそれのない位置にあり、かつ、高燥であること。

二  省略

第二条 墓地等の構造設備は、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。ただし、土地の状況又は特殊な構造設備を設けることにより知事が衛生上及び風教上支障がないと認めるときは、この限りでない。

一  省略

二  省略

三  火葬場

ア  外から見透すことができないようにその周囲に高さ二・〇メートル以上の垣、へい等を設けること。

イ  適当な構造の火炉、煙突、防臭設備その他必要な附属設備を設けること。

右の規定は許可権者の裁量判断の基準を具体化したものと考えられるが、これらの規定も一般的公益の保護を目的として行政権の行使に制約を課したものとはいい得ても、住民の個別的利益の保護を目的とするものではない。

他に住民の個別的利益を保護したことを窺わせる規定は存在しない。

3 墓地埋葬法は一〇条一項の許可の要件ないし基準を定めておらず、同条項を受けた墓地、埋葬等に関する法律施行規則(昭和五八年厚生省令四五号による改正前のもの)も同様である。

しかし、墓地埋葬法一一条一項は都市計画事業として施行する火葬場の新設等については都市計画法五九条の認可又は承認をもつて墓地埋葬法一〇条の許可があつたものとみなすと規定しているところ、火葬場に関する都市計画事業の認可又は承認の基準は、事業の内容が都市計画に適合し、かつ事業施行期間が適切であることであつて(都市計画法六一条一項)、もつぱら公益上の観点から定められているといえるから、墓地埋葬法一〇条一項の許可の基準も、もつぱら公益上の観点から定められるべきものというべきである。

なお、福島県細則は地方自治法一五条の規則であるから、本来法令に違反しない限度において効力を有するものであることはいうまでもない。そして、墓地埋葬法自体が何ら許可要件、許可基準を具体的に定めていない以上、右の細則の規定は許可権者自らが自己の裁量権の行使の方針を定めたものにすぎないと解すべきであつて、同細則の存在をもつて、「行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課している」ものということはできないのみならず、同細則の前記規定が最終的判断基準を「衛生上及び風教上支障がない」こととしている点(一条本文ただし書)からすれば、これらの規定もまた一般的公益の保護を目的とするものであることは明らかである。

4 墓地埋葬法は、一〇条一項の許可に際し、付近住民に対して意見書等の提出権を付与したり、聴聞手続を行うべきこととしたりする規定を一切置いていないし、また、右許可に対する不服申立の手段も設けておらず、この点からも、同法が一般的公益の保護を目的としていることが窺えるのである。

5 原告らは本件火葬場設置予定地付近に居住する住民若しくは土地所有者であることをもつて原告適格を基礎づけ得ると考えているようである。

しかしながら、墓地埋葬法及びその付属法令が付近住民の利益を個別的に保護しているものでないことは前述したとおりであるから、原告らが付近住民であることをもつて原告適格を基礎づけることはできないし、本件許可が原告米倉武信の土地所有権を侵害したり、又は必然的に侵害することになるとはおよそ考えられないから、いずれにしても原告らが原告適格を有しないことは明らかである。

6 よつて本件取消しの訴えは、原告適格を欠く不適法な訴えとして却下されるべきである。

第四本案前の申立理由に対する原告らの反論

一  被告は、墓地埋葬法及びその付属法令が付近住民の利益を個別的に保護しているものではない旨主張する。

しかし個人の利益を基礎としない一般的公益はありえない。

福島県細則には、火葬場設置場所の基準として、国道・県道・鉄道等に近接していないこと、高燥であること等の、火葬場の構造設備の基準として、外から見透すことができないようにその周囲に高さ二・〇メートル以上の垣、へい等を設けること、適当な煙突、防臭設備その他必要な附属設備を設けること等の規定があるのであつて、これらの規定は当該火葬場の地域住民の利益を個別的に保護する規定である。

二  本件火葬場が建設された場合、地域住民であり、当該地域に農地を所有する原告らは、次のような影響を受ける。

1  農地に対する農薬の散布は、火葬場及び同所に出入する者のために制限される。

2  本件地域には用水路はあつても、火葬場の排水路はないから、火葬場によつて農地が影響を受ける。

3  火葬場により日照、風通しが悪くなり、農作物の発育に多大の影響が出る。

4  火葬場に対する高圧電線の設置は必須であり、これにより、従来行つてきたへリコプターによる農薬共同散布防除虫作業が困難となる。

5  本件火葬場の敷地は狭隘であつて、駐車は一〇台程度より見込まれない。火葬場出入口に通ずる県道は、火葬場出入者のための駐車場と化する。

三  以上のとおり本件許可処分によつて、地域住民である原告らは差し迫つた重大な影響を被ることが相当程度に予想できるのであつて、原告らは本件訴えについて原告適格を有するものというべきである。

第五請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一は認める。

二1  同二の1の(一)のうち、本件火葬場が都市計画法上の都市施設であることは認める。本件火葬場の設置が相馬市における都市計画事業として施行すべきものであること、本件都市計画事業の施行者が相馬市又は組合であること及び右火葬場の設置は相馬市又は組合において都市計画法五九条により、右都市計画事業の認可を受けて施行すべきものであることは争う。

都市計画に定められた都市施設であるからといつて、必ずしも都市計画事業として行われるとは限らない。都市計画事業の認可を受けた場合の効用は、認可が土地収用法二六条一項の事業の認定の告示とみなされ、土地の収用権が付与されるところにある。用地の確保が既にできている場合等土地を収用する必要がないときは、認可を受けて都市計画事業として行う必要性は存しない。

同二の1の(二)のうち、組合が都市計画事業の認可を受けることなく墓地埋葬法一〇条一項による経営許可の申請をし、被告においてその許可をしたこと及び都市計画法五九条一項に規定する市町村に一部事務組合が含まれることは認める。その余は争う。

同二の1の(三)のうち、組合が墓地埋葬法一〇条一項による経営許可の申請をしたことは認める。その余は争う。

2  同二の2の(三)のうち、前段は認める。後段((1)ないし(3))のうち、<6>、<7>の添付書類が添付されていないこと、組合が福島県知事に対し事業認定の申請をしたこと及び被告が土地収用法の事業認定を前提として本件許可処分をしたことは否認する。火葬場建設予定地の土地に関する他の法令上の措置については、本件許可処分があり次第原告ら主張のとおりの手続をとり、その写を送付するとしたこと及び原告主張のとおりの佐藤満名義の覚書を添付したことは認める。(3)は争う。

3  同二の3のうち、本件許可処分の申請書に相馬都市計画審議会長発昭和五六年一二月一日付諮問第二九号意見書が添付されていることは認める。その余は争う。

4  同二の4は争う。

5  同二の5の冒頭のうち、本件都市計画決定及び本件許可処分が無効であることは争う。その余は認める。

同二の5の(一)は認める。

同二の5の(二)のうち、第五二六条文書が事前協議に関する文書であることは認める。その余は争う。

同二の5の(三)のうち、本件都市計画決定の効力が生じないとの点は争う。その余は認める。

同二の5の(四)は争う。

6  同二の6のうち、福島県知事の承認が県審議会の議決を経たうえでなされたこと及び(一)、(二)の各事実は認める。その余は争う。

7  同二の7は争う。

三  同三は争う。

四  同四のうち、原告らが本件火葬場設置予定地付近の住民であること及び原告米倉武信が農地を所有していることは認める。原告適格は争う。

第六被告の主張

(本件処分に至る経緯)

一  相馬市が昭和三〇年に同市西山地区に建設した火葬場(以下「現火葬場」という。)は、薪を燃料とする旧式のもので、進入道路幅員が狭く、自動車の通行が不可能であつたため、昭和四三年ころより、ほとんど使用されなくなつた。

そのため地域住民は隣接の原町方部環境衛生組合の火葬場や宮城県亘理町の火葬場を利用してきたが、これらの火葬場も地元利用を優先するため、相馬市及び新地町住民については午前中のみの利用に制限され、そのため早朝の出棺を余儀なくされている。

かかる状況から、相馬市及び新地町にとつて火葬場の建設は喫緊の課題となり、昭和五三年ころから相馬方部衛生組合においてその建設を行うべく建設予定地の選定に着手した。

建設予定地としては三十数箇所の候補地のなかから数箇所を選んだが、いずれも地元の強い反対のほか進入道路拡幅等について地権者の同意が得られず、難航した結果、県道脇に立地する本件場所を所有者の同意を得たうえ、建設予定地として選定したものである。

二  相馬方部衛生組合は、昭和五六年一〇月一七日、相馬市長に対し都市施設たる火葬場に関する都市計画決定の申請を行つた。

相馬市は、同年一一月右都市計画案につき、都市計画法一七条の規定に基づく公告を行うとともに縦覧に供し、同年一二月相馬都市計画審議会に諮問した結果、同審議会から「相馬都市計画火葬場の位置決定については、提出された意見書の趣旨を十分参酌し、地域住民の協力を得られるよう最大の努力をすること」との付帯条件つきで、原案に同意する旨の答申があり、更に相馬市は福島県知事に対し同法一九条一項による承認申請を行い、同知事の同年一二月九日付け承認を得て相馬都市計画火葬場を決定し、同月一二日告示した。

三  そこで相馬方部衛生組合は右審議会の答申を尊重して地域住民の協力を得るべく話合いを行つたが、原告らは火葬場の建設そのものに反対するものではないが、建設予定地での建設には反対である旨強く主張し、一方組合は他に適地なしとして双方の意見は平行線をたどり話し合いはつかなかつた。

一方原告らは前記都市計画決定に対し異議の申立及び審査請求を行つたがいずれも却下された。

四  相馬方部衛生組合は、昭和五七年五月二八日付で、被告に対し、墓地埋葬法一〇条一項の規定に基づく火葬場経営許可申請書を提出した。被告は組合及び原告らの話合いによる合意を期待して再三にわたり話合いを勧奨したが、合意に至らず、同五八年四月一四日、申請を適法と認めて本件許可処分をしたものである。

第七被告の主張に対する原告らの認否

一  被告の主張一のうち、自動車の通行が不可能であつたため、昭和四三年ころより現火葬場がほとんど使用されなくなつたことは否認する。その余は認める。

他市町村の火葬場の利用が制限されたのは、福島県が斡旋し、相馬市長に対し、現火葬場の改築を申し入れたのに対し、同市長がこれを断つたため、原町市及び地域住民が反発したからである。本件火葬場建設予定地の選定は、相馬市長の独善独裁により、地域住民に秘匿のままなされたものである。

二  同二のうち、組合が相馬市長に対し都市計画決定の申請を行つたことは不知。その余は認める。

三  同三のうち、地域住民と話合いを行つた者が組合であることは争う。その余は認める。地域住民と話合いを行つた者は相馬市当局である。

四  同四は認める。

第八証拠関係<省略>

理由

一  被告が昭和五八年四月一四日、相馬方部衛生組合管理者相馬市長今野繁に対し、墓地埋葬法一〇条一項に基づき本件許可処分をしたこと及び原告らが本件火葬場設置予定地付近の住民であり、原告米倉武信が付近に農地を所有していることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三号証の一ないし四、同第五号証によれば、本件火葬場予定地はその南西部分が県道山上赤木線に接し、その北東部分が国鉄常磐線の軌道敷に近接する面積三八七三平方メートルの土地(田二筆)であつて付近一帯は水田であり、原告らのうち原告武沢正雄の住居は右予定地から国鉄常磐線を越え東方約三〇〇メートルの地点にあり、その余の原告らの住居はそのほとんどが五〇〇メートルを越える地点(原告三浦明、同星幸喜、同天野アキ、同佐々木要人、同佐々木三男、同菊地徹弥の住居は五〇〇メートル内)にあることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

二  ところで原告らは、主位的に本件許可処分の無効確認を求め、本件許可処分後建設が予定される本件火葬場によつて、原告らは、<1>農地に対する農薬の散布が、火葬場及び同所に出入する者のために制限される、<2>本件地域には用水路はあつても、火葬場の排水路はないから、火葬場によつて農地が影響を受ける、<3>火葬場により日照、風通しが悪くなり農作物の発育に多大の影響が出る、<4>火葬場に対する高圧電線の設置は必須であり、これにより従来行つてきたへリコプターによる農薬共同散布防除虫作業が困難となる、<5>本件火葬場の敷地は狭隘であつて、駐車は一〇台程度より見込まれず、火葬場出入口に通ずる県道は、火葬場出入者のための駐車場と化する、以上のことにより重大な影響を被る旨主張する。

しかしながら無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができるのであり(行政事件訴訟法三六条)、右にいう当該処分又は裁決に続く「処分」とは、必ずしも一連の手続を構成する処分であることを要しないが、同法三条二項に規定する行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいい、行政庁の処分その他公権力の行使とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうちで、その行為により直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解せられる。火葬場の建設、設置行為はそれ自体直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではないから、原告らがたとえ本件火葬場の建設、設置の結果、事実上何らかの影響を受けるおそれがあるとしても、同法三六条にいう当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者に該当するということはできない。

仮に本件火葬場の建設、設置が本件許可処分に続く処分に該当し、且つ右<1>、<4>、<5>のような事実が予想しうるとしても、これによつて原告らが被ることあるべき権利の制約は、社会共同生活者として受忍すべき限度を越えるものとはいい難く、また<2>、<3>により原告らが損害を被ることを推認しうべき証拠はない。そのほか本件火葬場の設置により、原告らが被るべき個別的具体的損害を推認すべき証拠もない。

そうするといずれにしても原告らは本件許可処分後に続く処分により損害を受けるおそれがあるとは認められない。

また本件許可処分は、後記のとおり直接原告らの権利若しくは法律上保護された利益を侵害するものとはいえないから、結局原告らは本件許可処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者とはいえない。

そうすると、その余の点について論ずるまでもなく、原告らは本件無効確認の訴えについて原告適格を有しないものといわなければならない。

三  そこで次に本件許可処分取消しの訴えについて検討する。

処分取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができ、ここにいう法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害される者をいうと解せられる。

そして右にいう法律上保護された利益とは、当該処分の根拠法規である行政法規が私人等権利主体の個別的利益を保護することを目的として、行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、行政法規が抽象的一般的な公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果、たまたま一定の者が付随的反射的に受けることとなる利益は、右にいう法律上保護された利益ではなく、したがつてこのような利益を侵害されたにすぎない者は、当該処分の取消しを求める法律上の利益を有する者には該当しない。

四  墓地埋葬法は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とし(同法一条)、同法一〇条は、墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならず、また右により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の旋設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も都道府県知事の許可を受けなければならない旨を規定している。

右規定による許可は、墓地埋葬法の右目的に則りなされる裁量的許可処分であつて、同法によつて受ける付近住民の利益は、付随的反射的利益にとどまると解せられる。

もつとも成立に争いのない乙第二号証によれば、福島県知事が地方自治法一五条一項に基づき、その権限に属する事務に関する規則として、福島県細則を制定し、右細則一条には、墓地及び火葬場の設置場所は、ア 国道、県道その他交通のひん繁な道路、鉄道、軌道又は河川に近接していないこと、イ 官公署、公園、学校、病院その他の公共的施設及び人家の集落から、墓地の場合にあつては一〇〇メートル以上、火葬場の場合にあつては三〇〇メートル以上離れていること、ウ 飲用水を汚染するおそれのない位置にあり、かつ高燥であることの各基準に適合するものでなければならず、ただし知事が土地の状況等から衛生上及び風教上支障がないと認めるときは、右各基準に依らなくともよい旨規定していることが認められる。

しかし右細則は、許可権者たる福島県知事がその事務処理のための裁量判断の基準を具体化したもので、これによつて住民に対し、個別的具体的な法的利益を保障したものということができず、他に墓地埋葬法及び附属法令上、同法が住民に対し個別的具体的法的利益を保障するものであることを認めうべき根拠規定はない。そして本件許可処分自体は、直接本件火葬場付近土地所有者等の権利を制限し又は義務を課するものでないことはいうまでもない。

そうすると一般住民である原告らは、本件許可処分によつて、その権利ないし法律上保護された利益を侵害されるものとはいえないから、本件許可処分の取消しを求める原告適格をも有しないといわなければならない。

五  以上によれば、原告らの本件各訴えは不適法であるから、いずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林茂雄 山口忍 寺内保惠)

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